「その①」では、商品ごとの原価を正しく計算し、売上高から原価を差し引いた売上総利益を、その商品が持つ最初のHP(ヒットポイント)として捉えました。
原価が分かると、
- どの商品に十分なHPがあるのか
- どの商品は最初からHPが少ないのか
- どの商品が会社の利益を支えているのか
が見えるようになります。
しかし、商品のHPは原価だけで決まるものではありません。
もう一つ大きな影響を与えるのが、販売単価と値引きです。
せっかく原価を正しく計算しても、販売価格が低すぎたり、過度な値引きが行われていたりすれば、商品は販売された瞬間に大きなダメージを受けます。
原価が分かったら、次に販売単価へ立ち返る。
これが価格戦略の出発点です。
その価格は、本当に適正でしょうか
商品の販売価格は、どのように決められているでしょうか。
昔からこの価格だから。
競合他社と同じくらいだから。
営業担当者が売りやすい価格だから。
お客様から値下げを求められたから。
こうした理由で、長年価格が決められている商品も少なくありません。
しかし、原材料費、人件費、物流費などが変化しているにもかかわらず、販売価格だけが昔のままでは、商品のHPは少しずつ減っていきます。
さらに値引きが加われば、販売数量は増えても利益がほとんど残らない状態になりかねません。
原価を把握した後は、
今の販売価格で、会社に必要な利益を残せるのか
を改めて確認する必要があります。
値引きは商品のHPを直接削る
値引きは、売上高を減らすだけではありません。
値引きした金額の多くは、そのまま利益の減少につながります。
例えば、販売価格が1,000円、原価が800円の商品を考えてみます。
値引きをしなければ、1個当たりの売上総利益は200円です。
ところが、100円値引きして900円で販売すると、売上総利益は100円になります。
販売価格は10%しか下がっていません。
しかし商品のHPは、200円から100円へと半分になります。
10%の値引きで、利益が50%減る。
薄利の商品では、このようなことが簡単に起こります。
値引きは、見た目以上に強力な攻撃なのです。
限度を超えた値引きをする「ラスボス営業」はいないか
営業担当者にとって、値引きは契約を取るための使いやすい武器です。
価格を下げれば、お客様との交渉は進みやすくなります。
売上目標も達成しやすくなります。
しかし、売上だけを評価している会社では、値引きによってどれだけ利益を失ったのかが見えにくくなります。
高額な値引きで大型案件を獲得し、売上ランキングではトップ。
ところが利益を確認すると、ほとんど会社に残っていない。
場合によっては赤字になっている。
そのような営業担当者が、社内で高く評価されているかもしれません。
商品や案件のHPを一撃で削るほどの値引きを行う営業担当者は、会社にとって頼れる勇者でしょうか。
それとも、利益を奪うラスボス営業でしょうか。
もちろん、営業担当者だけの責任ではありません。
問題なのは、商品ごとの最低販売価格や値引きの限度を会社が示していないことです。
商品ごとに「守るべき価格」を決める
すべての商品に同じ値引きルールを適用することはできません。
原価が低く、十分なHPを持つ商品であれば、一定の値引きを行っても利益を確保できます。
一方で、もともとHPが小さい商品は、わずかな値引きでも利益がなくなります。
だからこそ商品ごとに、
- 通常の販売価格
- 目標とする販売価格
- 営業判断で認める値引きの範囲
- 上司の承認が必要となる価格
- これを下回ってはいけない最低価格
を決めておく必要があります。
重要なのは、価格を固定することではありません。
値引きをした結果、どれだけHPが残るのかを理解した上で判断することです。
戦略的な値引きもあります。
新規顧客を獲得するための値引き。
大量購入を促すための値引き。
在庫を適正化するための値引き。
将来の取引拡大を見込んだ値引き。
こうした値引きは、目的と期待する効果が明確であれば、将来の利益を生み出す投資になります。
問題なのは、目的も検証もないまま、値引きが当たり前になることです。
薄利多売の商品ほど、わずかな値上げの効果が大きい
価格戦略では、値引きを抑えることと同時に、値上げも重要な選択肢になります。
特に注目すべきなのが、販売数量は多いものの、1個当たりの利益が小さい商品です。
利益は、簡単に表すと次のように考えられます。
利益 = 販売数量 ×(販売単価 − 1個当たりの原価)
例えば、次の商品を考えてみます。
- 販売数量:10,000個
- 販売単価:1,000円
- 1個当たりの原価:950円
1個当たりの利益は50円です。
全体の利益は、
10,000個 × 50円 = 50万円
となります。
ここで、販売価格をわずか2%、20円だけ値上げして1,020円にしたとします。
販売数量と原価が変わらなければ、1個当たりの利益は70円になります。
全体の利益は、
10,000個 × 70円 = 70万円
です。
販売価格は2%しか上げていません。
しかし利益は、50万円から70万円へと40%増えます。
薄利多売の商品ほど、わずかな価格変更が利益へ与える影響は大きくなります。
人気商品こそ、価格を見直す余地がある
企業は、人気商品の値上げに慎重になりがちです。
値上げをしたらお客様が離れてしまうのではないか。
販売数量が落ちるのではないか。
競合商品へ流れてしまうのではないか。
もちろん、慎重な検討は必要です。
しかし人気があるということは、その商品がお客様から価値を認められているということでもあります。
特に、
販売数量は多い。
知名度も高い。
リピート購入も多い。
それにもかかわらず、HPが極端に低い。
このような商品は、値上げを積極的に検討すべき候補です。
単価を少し上げるだけで、会社全体の利益が大きく改善する可能性があります。
人気商品だから価格を変えないのではありません。
人気商品だからこそ、提供価値に見合った適正な価格を考える必要があります。
最近は価格を見直しやすい環境になっている
近年は原材料費、人件費、光熱費、物流費などの上昇を背景に、多くの企業が価格改定を行っています。
以前と比べると、お客様や取引先も値上げの必要性を理解しやすくなっています。
これは、企業にとって価格を見直す機会でもあります。
ただし、周囲が値上げしているから一律に上げるという考え方では十分ではありません。
商品ごとの原価とHPを確認し、
- 値上げが必要な商品
- 現在の価格を維持する商品
- 値引きを制限すべき商品
- 付加価値を高めてから価格を上げる商品
を見極める必要があります。
価格改定は、お客様へ負担を求めるだけの行為ではありません。
品質を守る。
サービスを継続する。
社員の待遇を改善する。
新しい商品やサービスへ投資する。
そのために必要な利益を確保する経営判断です。
値上げは金額ではなく、利益への効果で考える
販売価格を見直す際、多くの企業は「何%上げるか」に注目します。
しかし重要なのは、値上げ率そのものではありません。
値上げによって、商品ごとの残りHPがどれだけ増えるかです。
同じ5%の値上げでも、原価率の低い商品と高い商品では、利益への影響が異なります。
販売数量が多い商品ほど、1個当たりのわずかな値上げが全体の利益を大きく押し上げます。
一方で、値上げによって販売数量が減る可能性もあります。
そのため、
- 値上げ前の利益
- 値上げ後に想定される利益
- 販売数量が減少しても利益を維持できる範囲
- 競合商品との価格差
- お客様が感じる提供価値
を確認しながら判断する必要があります。
販売数量を守ることが目的ではありません。
最終的に会社へ残る利益を増やすことが目的です。
売上目標だけでは、値引きは止められない
営業部門が売上高だけで評価されている場合、値引きを止めることは困難です。
営業担当者から見れば、値引きによって契約を獲得し、売上目標を達成することが合理的な行動になるからです。
値引きをコントロールするためには、評価の仕組みも変える必要があります。
売上高だけではなく、
- 売上総利益
- 利益率
- 値引き額
- 標準価格からの差
- 商品や案件ごとの残りHP
を見る必要があります。
売上の大きさではなく、会社にどれだけ利益を残したかを評価する。
この考え方に変えなければ、現場の値引きはなくなりません。
価格戦略は、経営者や経理部門だけの仕事ではありません。
営業評価や承認ルールまで含めた会社全体の仕組みです。
まとめ
原価を把握したら、必ず販売価格と値引きを見直す必要があります。
販売価格が低すぎれば、商品は最初から十分なHPを持てません。
大幅な値引きをすれば、販売した瞬間にHPの大部分を失います。
特に薄利多売の商品では、わずかな値引きが利益を大きく減らし、わずかな値上げが利益を大きく押し上げます。
重要なのは、単に値上げをすることでも、値引きを禁止することでもありません。
商品ごとの原価を基準に、
どの価格で販売すれば、会社に必要なHPを残せるのかを考えることです。
商品ごとに適正価格を定める。
値引きの限度を明確にする。
人気があるのにHPが少ない商品は、値上げを検討する。
営業担当者を売上だけではなく、残した利益で評価する。
これが価格戦略の基本です。
しかし、販売価格と値引きを見直しただけでは、商品の本当の利益はまだ分かりません。
販売後には、広告宣伝費、販売促進費、物流費、販売手数料など、さらに多くの費用が発生します。
値引きによって瀕死になった商品へ、さらに販売費という追い打ちをかけていないでしょうか。
次回の「その③」では、商品ごとの販売費まで含めた本当の利益を把握し、失っている利益を食い止める方法について考えます。